登山・山歩き

登山の水分補給どうする?近場の山でも油断できない給水量を知るべき理由

登山を安全に行うためには、水分補給の必要性を必ず知っておいてください。登山中は日常生活とは水分補給の方法が異なります。

体の水分が不足すると、熱中症や脱水症状を引き起こし、動けなくなってしまう可能性もあるため細心の注意が必要です。

登山中はどのくらいの水分が必要で、どのように給水するべきなのでしょうか。

今回は、必要な水分量の計算方法やおすすめの飲み物など、登山の水分補給についてまとめて解説します。

登山では必須!水分補給の重要性

登山をしているときに水分補給を怠ると、体が危険な状態になって動けなくなってしまう可能性もあります。

登山中は想像以上にたくさんの汗をかくもの。もちろん、夏山であればなおさらです。

たくさんの汗をかいているのに水分補給をしないと、脱水症状や熱中症、高山病を引き起こしてしまうリスクが高まります。

国際山岳医で医学博士の大城和恵さんも、「山に駐在しているときは圧倒的に脱水の患者さんが多い」と仰っているほどです。

また、水分補給は体力を回復させる効果も期待できるため、その後の行動を元気に行うためにも欠かせません。

水分補給の基本な考え方

登山での水分補給はどれくらいの頻度で、どのタイミングで、どれくらい飲めばよいのでしょうか?

登山での水分補給についての基本的な考え方を確認していきましょう。

登山での水分補給

水分補給は「登山前」「登山中」「下山後」

登山での水分補給は、登山前・登山中・下山後の3つのタイミングが基本です。

先にご紹介した大城さんによると、登山前に摂取するべき水分量は、ペットボトル1本分。

眠っているときに失われた水分量を補給するために、出発までに十分な水分補給をしておきましょう。

そして登山中は、汗で失われる水分量に応じて水分補給をしますが、汗の量は計算式から算出することができるので、後ほど解説します。

下山後など1日の行動が終わった後も、その日に失われた水分をしっかりと補給しましょう。

喉が渇く前にする

登山中の水分補給で最も大切なことは、「喉が渇く前に水分を摂る」ということ。

「喉が乾いた」ということは、もうすでに体の中の水分が足りていない状態です。

目安は100~200mLの水分補給を30分間に1回。喉が渇く前に水分補給をして、体内に十分な量の水分を蓄えておくように心がけてください。

登山中の水分補給は塩分とともに

水分補給をするときは、塩分も一緒に摂取しましょう。

汗には塩分も含まれているので、汗をかけば体内の塩分量も同時に少なくなるもの。

水分と塩分を同時に摂取すると熱中症のリスクを軽減させるだけでなく、効率よく体内に水分を蓄えられるようになります。

山小屋の飲料水を上手に活用する

登山中は水分補給が大切だとは言え、大量の飲料水を持ち運ぶとザックはかなりの重量になります。

そこで、山小屋の飲料水を上手に活用しましょう。

山小屋ではペットボトルや天然水が販売されているので、有料の飲料水を買い足すようにすればザックの重量も減り、肩や脚への負担軽減に役立ちます。

必要な水分量は「計算式」「季節」「標高差」で割り出す

ザックが重くなることを考えると、水分はたくさん持っていけばよいというものではありません。

そこで、計算式で汗の量を算出し、必要な水分量を知っておけば安心です。

ただし、夏と冬ではかく汗の量は変わりますし、標高差が大きくなるほど汗の量も増えると考えられます。

計算式から算出した水分量を基本にしながら、季節や標高差を考えて水の量を決めるようにしてください。

登山で必要な水分量を計算してみよう

前の項目でも解説したように、登山で必要となる水分量は計算式から算出可能です。

そこで、2種類の計算式をご紹介するので、ぜひご自身に当てはめて計算してみてください。

計算式

汗の量を予測して算出する方法

こちらでご紹介するのは、日本山岳ガイド協会によって提唱されている、かくと予測される汗の量から摂取するべき水分量を算出するための計算式です。

行動中と生活中の2パターンで確認していきましょう。

行動中の必要水分量

山を登るという行動をしている間に失われる汗の量は、行動時間とその人の体重で決まります。

たとえば、体重60kgの人が5時間登山をした場合の計算式は次のとおりです。

計算式

行動中の汗の量(mL)=体重(kg)×行動時間(時間)×5(mL)

この計算式に最初の条件を当てはめてみると…

計算式

1,500(mL)=60(kg)×5(時間)×5(mL)

1,500mLもの汗をかくということがわかりました。

そして、算出された汗の量から必要な水分量を導き出す計算式は次のようになります。

計算式

1,050~1,200(mL)=1,500(mL)×70~80(%)

汗の量の70~80%の水分を補給するべきだと考えられているので、汗の量に70~80%を乗じた結果、給水量は「1,050~1,200mL」です。

生活中の必要水分量

テント泊中や山小屋での生活中に必要な水分量は、行動中よりも少なくなります。そのため、求めるための計算式も次のとおりです。

計算式

生活中の汗の量(mL)=体重(kg)×行動時間(時間)×1(mL)

1時間にかく汗の量が5mLから1mLに変わるため、体重60kgの人が10時間生活した場合の汗の量は次のようになります。

計算式

600(mL)=60(kg)×10(時間)×1(mL)

10時間で600mLの水分が失われ、70~80%を補給する場合は・・・

計算式

420~480(mL)=600(mL)×70~80(%)

420~480mLの水分量が必要になるということがわかりました。

山で宿泊するときは、行動中と生活中の脱水量から必要水分量を計算し、山小屋で補充できる水の量も考慮したうえで持っていく水分量を決めましょう。

行動レベルによる必要水分量の違い

上記の計算式で算出した水の量は、一般的な行動レベルにおける登山の場合です。

スポーツ選手並みの体力を持つ人であれば、体重の2~3%程度が失われても問題ないという前提の計算式もありますが、一般的な登山を行うなら上記の日本山岳ガイド協会の計算式を用いた方が安心です。

自重と行動時間から算出する方法

次にご紹介する計算式は、鹿屋体育大学の山本教授が提唱するもの。

体重とザックの重量を足した「自重」と行動時間を使って、汗の量を考慮せずに必要水分量を算出します。

計算式

必要水分量=(体重+ザックの重量)(kg)×5×行動時間(時間)

たとえば、体重60kg、ザックの重量が15kg、行動時間が5時間のときであれば・・・

計算式

1,875mL=(60+15)(kg)×5×5(時間)

このように必要な水分量は1,875mLとなります。

日本山岳ガイド協会の計算式から算出される必要水分量を考慮しても、1,050~1,875mLの水を確保できれば安全だということがわかりました。

参考:公益社団法人日本山岳ガイド協会

登山中は何を飲む?水分補給におすすめの飲み物

計算式から必要な水分量がわかっても、水分補給に適していない飲み物を持って行っては水分補給の効果が半減してしまいます。

水分補給にはどのような飲み物が適しているのでしょうか?

適しているもの・適していないものの両方を解説していきます。

水分補給

水分補給に適している飲み物

まずは水分補給に適している飲み物です。水やスポーツ飲料、経口補水液などがあれば、大量に汗をかいても効率よく体内に水分を行き渡らせられます。

水分補給のための基本的な飲み物であり、水を持っていれば特に問題はありません。

ただし、水には塩分が含まれていないので、水ばかりを大量に摂取すると、筋痙攣などの症状を引き起こす「低ナトリウム血症」になる可能性も。

行動食で塩を補給するようにしましょう。体内への吸収が遅く、30分程度かかることにも注意してください。

アイソトニック飲料

アイソトニック飲料とは、市販されているスポーツ飲料のことです。

浸透圧が体液と同じくらいになるように調整されており、体内への吸収力が素早いことが特徴。

汗をかくことで失われるナトリウムやカリウムなどの電解質のほか、エネルギーも同時に補給できるので、エネルギー消費量が多い行動中の水分補給に適しています。

ハイポトニック飲料

ハイポトニック飲料とは、スポーツ飲料よりも糖質が少なく、塩分が多いタイプの飲料水。

浸透圧が体液よりも低く調整されており、アイソトニック飲料よりもさらに素早く体内に吸収されます。汗を大量にかくような激しい運動や縦走をするときに最適です。

経口補水液

経口補水液はハイポトニック飲料のひとつ。そのため、標高差の大きい山に登るときや熱中症になってしまったときなど、体液が非常に薄まっているときに飲むと効果的です。

水に薄めて飲むパウダータイプも販売されているので、いくつか持っているといざというときに役立ちます。

ミルクココア・スープ

ミルクココアやスープには水分補給のイメージがありませんが、体を温めてくれ、水分とエネルギーを同時に補給できる飲み物です。

冬山で飲むと冷えた体をしっかりと温めてくれます。ただし、お湯を作らなければ飲めないので、バーナーや魔法瓶に入れたお湯を忘れずに。

登山では避けるべき飲み物

登山中の水分補給に適していない飲み物は、コーヒーや紅茶、お茶、炭酸飲料などです。

嗜好として好みであっても、登山中は他の飲み物を飲むようにしましょう。

コーヒー・紅茶・お茶

コーヒーや紅茶、お茶にはカフェインが含まれており、利尿作用によってトイレに行きたくなり、体内に水分を蓄えるためには不向きです。

もしどうしても飲みたいのであれば、テントや山小屋など、汗をかく量が少ない生活中に飲むようにしてください。

炭酸飲料

炭酸飲料は思っているよりも水分量が摂取できません。

炭酸によって胃が膨れてしまい、適切な水分量が摂取できなくなるためです。

こちらもコーヒーなどと同様、生活中に飲むのであれば問題ありません。

水分補給のための道具を選ぼう

登山行動中に水分補給を行うためには、手軽に飲める道具を取り入れると便利。

山を登りながら素早く水分補給をするためのグッズを3つご紹介します。

水分補給のグッズ

ハイドレーション

ハイドレーションとは、柔らかい袋のようなボトルにチューブがついていて、ザックにボトルを入れたままチューブで水分補給ができるというもの。

ボトルを出さなくてもいつでもどこでも飲めるという点では、他に手軽さで勝るものはありません。

ただし、ボトルを水に水分補給を行うため、水分の残量がわかりにくいというところが難点。

また水以外の飲み物を入れると、カビが生えやすくなるので注意しましょう。

水筒

飲み物を入れるアイテムとしてスタンダードな水筒は、ザックから取り出す手間がかかりますが、水分補給用の道具として最も使い慣れているものだと思います。

登山で使うなら、プラスチックでできた軽量のもの、折りたたみ可能なコンパクトなものがおすすめ。

ペットボトル

ペットボトルも水分補給の道具としては定番ですが、水筒と違い、潰してコンパクトにできるのが強みです。

最近では潰しやすいペットボトルもあるので、飲んだ後に小さく潰せばザックの容量を節約することも可能。

ただし、ザックから取り出す手間がかかることは水筒と同じです。

登山における水分補給の4つの注意点

登山中の水分補給の大切さについて解説してきましたが、水分補給に関して4つの注意点があります。

登山中はただ水を飲めばよいというわけではないので、解説するこれらのポイントに注意してください。

注意点

水と行動食のパッキングはサイドポケット

水と行動食はザックの中にパッキングするのではなく、サイドポケットにパッキングするのが基本。取り出しやすさを重視しましょう。

サコッシュやウエストポーチに入れても便利です。

飲み過ぎるとトイレに行きたくなるため注意

水分補給は大切ですが、飲み過ぎると当然のことながらトイレに行きたくなります。

特に女性の場合は用を足せる場所が限られるため深刻な問題です。

水分を一気にたくさん摂るとトイレが近くなるので、こまめに少量ずつを飲むようにしましょう。

体を冷やさないように常温の水を用意するのもおすすめです。

水場の水を飲むときは慎重に

水場があればそこで水を飲むこともできますが、登山地図に掲載されていない水場は注意してください。

寄生虫や細菌が含まれている水である可能性もあります。

浄水器やバーナーでの加熱処理が可能であれば飲んでも問題ありませんが、そのまま飲むのは危険です。

テント泊のときは調理用の水も用意する

必要水分量を算出するための計算式をご紹介しましたが、富士登山などでテント泊をするときは、調理用の水を持参することも忘れないようにしましょう。

必要な水の量は作る料理によって変わりますが、キャンプ場に着いてから「水がない!」ということにならないように、事前に水が必要となるシーンを把握しておくことが大切です。

まとめ

たくさんの汗をかくアウトドアや登山では、こまめに水分補給をして、熱中症や脱水症状、高山病などを予防することが重要です。

普段の生活とは水分の摂取方法が変わるため、今回の記事を参考にして、今一度、水分補給について考え直してみてください。

安全に登山をするために欠かせない水分補給。

適切な水分補給ができるようになることも、登山者に必要な能力のひとつだと言えるのではないでしょうか。

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